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隻腕のメジャーリーガー
1920年代初頭、アメリカは、ペンシルベニア州の片田舎に
ピート・グレイという少年がいました。
「 ピート、すごいぞ!」
「 ボクは大きくなったら、絶対にメジャーリーガーになるんだ!」
しかし、ピートが6歳の時・・・・
「 よかった、気が付いたぞ!」
「 ピート、大丈夫?」
「 ウワーン! ボクの手がーっ!」
「 ピート、命があっただけ良かったじゃないか 」
「 そうよ、ピート・・・ 」
ピートは、交通事故のため右手の肘から先を失って
しまったのです。
「 おーい! この球が打てるかー?」
「 ヨーシ! 見てろよー!」
わずか6歳にして、メージャーリーガーへの夢を絶たれたピートは、
友達たちが楽しく野球をする姿を寂しく見つめることしかできません
でした。
ある日、ピートの住んでいる街に、マジシャンがやってきました。
初めて見るマジックに、ピートをはじめ子供たちはびっくり仰天
です。
すっかり夢中になったピートは、公演が終わって後片付けをする
様子まで熱心に見つめていました。
そんなピートに、マジシャンは簡単なマジックの仕掛けを見せてく
れました。
「いいかい、予想もしていないところに隠すのがコツなんだ。
人間の手の数は限られているけど、マジシャンは見えない魔法の
手が使えるように、一生懸命、練習してるんだよ」
マジシャンの言葉に発奮したピートは、野球への情熱を取り戻します。
その後、ハイスクールを卒業したピートは、3Aリーグ(サッカーのJリー
グで言うとJ2のようなもの)で、プレーするまでになっていました。
「ピート君、ぜひ、我がチームでプレイしてくれたまえ」
「ありがとうございます。ベックさん、ガンバリます! 」
1945年、3Aリーグでのピートの活躍を知ったセントルイ
ス・ラウンズのオーナー・ベックが、ピートに声をかけま
した。
メジャーリーガーになりたいというピートの長年の夢は、
ついに実現したのです。
「我がセントルイス・ブラウンズは、ここ数年最下位で、球場は
がら空きだ。
片腕の選手が出るとなったら、観客も少しは増えるだろう」
「オ、オーナー、彼は単なる客寄せパンダですか?
それじゃ、彼がかわいそうですよ」
― ピート・グレイ の デビュー戦 ―
打席に立った相手チームのジャクソン選手が思わずつぶやきました。
「隻腕のメジャーリーガーだと!捕球はできても、投げ返せないだろう」
「弱点を徹底的に突くのが、プロだ。メジャーの厳しさを教えてやるぜ!」
ジャクソン選手の打った球は、ライトを守るピートめざして飛んでいきました。
ライト前まで飛んできたジャクソン選手の打球を、ピートはなんとか
キャッチしました。
ピートはスナップを効かせて、グローブに入っていたボールを頭上に
投げ上げました。
そして、ボールが頭上にある間に、すばやくグローブを右の脇の
下へ入れました。
右の脇の下にはさんだグローブから左手を外すと、頭上の
ボールをすばやく左手でつかみました。
そして、握ったボールを素早く、2塁まで投げ返したのです。
ピートの信じられないファインプレーに、スタンドから大歓声が
送られました。
攻守が入れ替わって、ピートの打順が廻ってきました。
ところが、簡単に打てるほどメジャーは甘くありません。
ピートの初打席は三球三振でした。
しかし、2打席目・・・・
「エィッ!」
なんと、ピートは、バットをスィングするのではなく、ボール
めがけて 叩きつけるように振り下ろしたのです。
イレギュラーなバウンドに相手チームの内野手も慌てます。
「エーッ! あ、あいつ、あんなに足が速かったか!」
打球を捕った選手がボールを投げようとした時、すで
にピートは一塁ベースを踏んでいました。
万年最下位のセントルイス・ブラウンズは、結局この試合も負けてしまい
ましたが、試合で一番のヒーローは、隻腕のメジャーリーガー ピート・グ
レイでした。
ピート・グレイ 1915 3/6生- 2002 6/30没
1945年 77試合に出場,51安打 打率.218
ピートは結局、メジャーリーグで一年間しか活躍できませんでした。
しかし、ピートの活躍は、第二次大戦終結で復員した多数の傷痍軍人
に勇気と希望を与えたということです。
― おしまい ―