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人形の日
昔々、ある山道をひとりの若者が歩いていました。
「 あーっ! ハラ減ったなぁ・・・・」
「 良いニオイがすると思ったら、お堂の中にごちそうが・・・・ 」
若者は、お堂の中に入ると、夢中になって料理を食べ始めました。
「 ホホホホホッ、よほどお腹が空いてるんですね。」
「 わぁっ! 人がいたのか? 食べるのに夢中で気づかなかった!」
お堂の隅にいた少女の声に、若者はおどろきました。
「 ス、スミマセン。実は、この3日間、何も食べてなくて・・・」
「 別に、かまいませんよ。 どうせ、わたしひとりでは食べきれないのですから・・・・ 」
「 実は、わたしは人身御供なのです。この世にいられるのもあと3日・・・。
豪華な食事を用意してもらっても、とても食べる気にはなれませんから・・・・」
「 えっ? ひ、人身御供!」
「 はい、この地方の山奥には、山神さまという魔神がいて、
村では年に一度、人身御供を捧げるしきたりなのです。」
「 人身御供を取る神さまなんて、いるわけがない!
オイラが必ず何とかします! 」
若者は、お堂の隅にころがっていた材木を使って、何かを作り始めました。
「 こ、これは、いったい? 」
「 ハッハッハッ! お嬢さんの身代わりの人形を作ります。
大丈夫、あと3日で仕上げてみせますよ 」
「 ヨシッ! なんとか間に合ったぞ!」
「 わ、わたくし、そっくり・・・・・・ 」
― その夜 ―
二人がお堂の隅に隠れていると、怪しい者がやってきました。
こよい
「今宵はそなたか? フォッフォッフォッ! かわいいのう!」
「人身御供を取る神さまなんて、いるものか!化け物め! 今に見ていろよ!」
若者は、お堂の隅でつぶやきました。
「 では、いただきまーす!」
「 よし、今だ!」
様子を見ていた若者は、手に持ったヒモを引きました。
ウヮーッ!
突然、人形の背中が割れて、無数の針が飛び出してきました。
「 よしっ! やったぞ! 」
「 あっ! 山神さまが・・・・ 」
山神は、やがて大きな毒グモに変わりました。
こうして、毎年人身御供を取っていた恐ろしい山神は、醜い毒グモの姿で死にました。
祟りを恐れた村人たちは、毒グモと人形を一緒に埋めた塚を作り、毎年供養するよう
になりました。
その後、時代を経るにつれて、由来は忘れられ、今では10月15日に人形を供養する
「人形の日」ということだけが伝わっています。
― おしまい ―