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おしん物語
おしん物語
昔々、京の都におしんという娘がいました。
「 弁天さま、どうか、おしんが幸せになりますように・・・・・ 」
おしんの母親は、七福神の一人で音楽と芸能の
女神・弁財天を深く信仰していました。
かあさま
「 か、母様・・・・ 」
はやりやまい
おしんが7歳の時、母親は流行病でポックリ死んでしまいました。
しばらくして、おしんの父は再婚しました。
「おしん、お前の新しい母様と姉さまだよ」
「おしんちゃん、よろしくね」
「 これ、おしん、琴などひかなくてもよい。さっさと家の中を掃除しなさい! 」
新しい母親は、おしんを下女のようにこき使いました。
たかつかさ
「 聞いたかぇ? 今度、三条の鷹司家で、園遊会が行われるそうな。」
「 あそこの若君も年頃だからねぇ。
きっと、お嫁さん候補を見つけるためだよ。
お前も玉の輿に乗るチャンスだよ」
「 それじゃ、おしん、園遊会に行ってくるからね。
お前は、しっかり家の中を掃除しておくんだよ 」
かあ
「 お義母さまは、どうして辛く当たるのかしら。
わたしも、園遊会に行ってみたい・・・・ 」
おしんの前に突然、弁天さまが現れました。
「 ホッホッホッ! おしん、そなたのその願い、この弁天が叶えてやろうぞ 」
弁天さまは、不思議な力で、おしんを美しく着飾りました。
「 よいか、おしん、酉の刻を告げる六つの鐘(午後6時頃)が
鳴るまでには園遊会を出るのじゃぞ。
それから、母の形見の扇を忘れずに持ちなさい 」
「 弁天さま、ありがとうございます 」
おしんは弁天さまの不思議な力で、鷹司家の園遊会に着きました。
華やかな園遊会の雰囲気に、おしんはすっかり気おくれしてしまいました。
「 あら、こんなところに琴が・・・・・ 」
会場の片隅に置かれていた琴を見つけたおしんは、琴を弾きはじめました。
おしんが琴を弾いていると、突然、美しい笛の音が演奏に重なってきました。
ひとりの貴公子がおしんの横に座って、横笛を吹いていたのです。
おしんと貴公子が奏でる琴と横笛の美しい合奏に、園遊会の人々も聞きほれました。
突然、酉の刻を告げる六つの鐘が鳴りました。
「 た、たいへん、弁天さまとの約束が・・・」
おしんは慌てて外へ出ました。
「 おや? 」
鷹司家の若君は、おしんが扇を忘れたことに気が付きました。
園遊会で出会った娘の美しさと琴の演奏の見事さにすっかり魅了された
鷹司家の若君は、娘を嫁にしようとあちこちを訪ねました。
「 これは園遊会である娘が忘れて行った扇だが、絵柄が何だか判るか?」
誰も答えることができませんでした。
「 若様、その扇の絵柄、表は菊の花、裏は白波でございます 」
「 おぉっ! そなたは、あの時の・・・・・」
たかつかさ
こうして、おしんは、名門・鷹司家の若君とめでたく結婚し、幸せに暮らしたということです。
― おしまい ―
この作品は、坪内逍遥が 1901年に発表した「おしん物語」がベースです。
元々「おしん物語」は、世界的に有名な童話「シンデレラ」を和訳したものですが、
当時の日本の子どもで洋装しているのはごく一部で大多数のたちは着物に草履が
当たり前でした。そんな恰好の子どもたちに絹のドレス、ガラスの靴、舞踏会、馬車、
妖精などと直訳しても意味が判りません。
そこで、逍遥は、当時の日本の子どもたちに理解しやすいような形に改めたのです。
ところで、シンデレラは、元々「灰かぶり」という意味で、継母にこき使われ、体中が灰で
薄汚れていたことを表したものでした。
おしんという名前は辛抱強さを表していて、日本版シンデレラにぴったりと言えます。